環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉に関する
国際金属労働組合連盟(IMF)声明


 国際金属労働組合連盟(IMF)とその加盟組合は、輸出向け商品や製品を生産し、世界経済を支えている何百万もの金属労働者を代表する組織である。加盟組合はいずれも貿易の重要性を理解している。過去に締結されてきた貿易協定は世界の労働者の利益には結びついておらず、国内または国家間の不平等の縮小にも寄与してこなかったことも、誰もが知るところである。

 貿易は公正に行われなければならない。また貿易は、雇用拡大支援、社会的保護の改善、そして労働者の基本的権利、環境基準、人権、民主主義の推進を通じた生活水準の引き上げを目的として、公平の原則に基づいて行われなければならない。

 今こそ、貿易のための新たなフレームワークを築くべき好機である。世界経済が重大な局面を迎えるなかで環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉が進む。世界の多くの国は、無分別かつ無責任な金融市場に対するコントロールを欠き、それゆえに経済的破滅を経験しつつある。世界全体の失業者数は2億5,000万〜3億人に達する。国際金融機関や各国政府が国の債務維持を労働者の背に負わせようとする一方、反労組勢力も急速に力を伸ばしている。

いかなる貿易協定においても、協定に参加するすべての国における持続可能な発展と質の高い雇用の創出を、重要かつ明確な目標として据えるべきである。

IMFは、TPPに以下の原則を含めるべきであると考える:

  1. 各国政府は過去の貿易協定がもたらした影響について、戦略的レビューを実行すべきである。このレビューは透明性の高いものとし、国内雇用への影響(創出される雇用/喪失する雇用の種類、各国別の雇用創出地域と雇用期間)に関する所見を盛り込まなければならない。最終報告書は各国がTPPに調印するか否かの検討を行う前に発表し、閲覧可能とすべきである。

  2. また各国政府は協定締結に先立ち、社会的/経済的影響の可能性を予備評価しなければならない。協定参加国における雇用および雇用条件への影響の可能性に関する綿密な評価は、様々な社会組織の参加を得て、透明性の高い包括的な手法で行わなければならない。

  3. TPPに参加する開発途上国の発展可能性に関し、予備的な影響評価を行うことが重要である。この評価においては、未成熟産業と食糧主権(food severeignty)への影響の可能性を網羅しなければならない。

  4. 透明性:交渉におけるすべての状況は、労働組合を含めた市民社会と共有すべきである。各国政府は、公の論議を可能とするために協定案の全文を議会に提出しなければならない。また本来の意味での民主的手続きに従い、交渉中のすべての協定案を一般に公開するとともに、ステークホルダー(利害関係者)からの完全かつ有効な諮問を受ける必要がある。

  5. 労働者の権利:IMFおよび世界の労働運動全体にとって、団結権、団体交渉権、そして差別、強制労働、児童労働のない環境で働く権利を労働者が犠牲にしている限り、貿易が自由であるということにはならない。同時に、安全で健康的な環境、または最低限の生活水準の維持が可能な収入を得られる環境において働くことができない限り、貿易が自由であるということにはならない。TPPの労働に関する章には明確かつ曖昧さを排除する形で、国際労働条約と関連の法律で明確に定義された労働者のすべての基本的権利とその他の適切な労働基準をすべて盛り込む必要がある。協定締結に先立ち、すべての調印国において、これらの労働基準が遵守されていなければならない。

     また労働に関する章には事実上の強制力を持たせ、十分な抑止力として機能する効果的な措置を盛り込む必要がある。協定の他の章の規定に違反した場合と同様に、労働基準に違反した場合の紛争解決手続きを含めなければならない。

     また各国がそれぞれの責任を果たせるようにすることを目的としたキャパシティ・ビルディング(能力強化)支援に関して明確なコミットメントを盛り込む必要がある。これらの作業を支援する社会組織と国際労働機関(ILO)の役割は重要であり、また質の高い雇用の創出と基本的な労働基準の普及を協定の明確な目標とするためには十分なリソースが必要となる。

  6. TPPには、市民の利益となる法律を制定する各国政府の主権を制限する規定や、国内投資家よりも幅広い権利を外国人投資家に付与する条項を盛り込むべきではない。またTPPには、投資家・国家間の紛争解決メカニズム、及び公共の利益に資する合法的な規制に対する異議申し立てを可能とするような規定を盛り込んではならない。さらに金融サービスと投資の自由化に関するコミットメントの中に、投資に関する規定を含めてはならない。自由化によって、資本の流れを管理する国の能力が削がれたり、有効な金融規制が弱体化しかねないためである。調達規則においては、現地の経済発展や雇用創出などの公共政策目標を推進するために必要な中央/地域/地方政府及び当局の権能を制限してはならない。基本的な公共サービスに関する項目はTPPから除外すべきである。サービス貿易についての問題は、「自由化」すべきサービスを特にリストアップしたポジティブ・リストによるアプローチに基づいて対処すべきである。

  7. 製薬会社の知的所有権を拡張し、開発途上国に限らず安価な医薬品へのアクセスを阻害しかねないTRIPS(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)プラス条項は、TPPから除外すべきである。同様に、各国政府の医薬品価格交渉力を制限したり、医療へのアクセスを阻害する可能性のあるコミットメントも除外すべきである。公共衛生制度の薬価設定/償還基準に対する民間セクターの異議申し立てを可能にするような薬価設定規定を盛り込むべきではない。

  8. 国営/公営企業(SOPE):TPPには、自国外において投資を行うSOPEが、純粋に商業的な性格の営利企業として操業することを義務づける、強制力のある一連の規則を含めるべきである。また、他のTPP加盟国領土内においてSOPEを競争優位に置く非商業的な慣行(低利融資など)をSOPEが求めることを認めてはならない。TPPでは、これら規則の効果的なモニタリングと施行のための紛争解決メカニズムを設置すべきであり、TPP加盟国は自国のSOPEに関する情報を他国に公開しなければならない。SOPEの定義には、自国政府によって実質的に管理されている企業をすべて含めるべきである。自国領土内で政府または政府関連の機能を果たす、合法的な政府事業体または政府系の事業体に対しては、SOPE規則を適用すべきでない。

  9. 原産国規則/製造業サプライ・チェーン(供給網):TPPにおいては、多国籍企業の世界的サプライ・チェーンによる部品調達を利することのみを目的とした原産国規則の緩和は行うべきでなく、逆に原産国規則を強化すべきである。

  10. 第4モードの一時的な人の移動に関する規定はTPPのような協定からは除外し、国際労働機関(ILO)基準やその他の国際基準との整合性の取れた各国の移民政策に委ねるべきである。